教育機会確保法とは
教育機会確保法とは、学校における集団生活に関する心理的な負担その他の理由のために就学が困難な状況にあり、相当の期間学校を欠席している義務教育期間中の児童生徒に対し、教育を受ける機会の確保及び支援の推進を目的としています。不登校状態にある児童生徒への施策に関する基本理念・基本指針と、国及び地方公共団体の責務が法的に初めて明確化されました。
「教育機会の確保等に関する施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない」として、以下のように示されています。
- 全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保が図られるようにすること。
- 不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること。
- 不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境の整備が図られるようにすること。
- 義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること。
- 国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること。

また、学校以外の場における学習活動等を行う児童生徒への支援に関しても明記されました。
学校以外の場における学習活動や心身の状況を継続的に把握すること、また、多様な学習活動の重要性と休養の必要性を踏まえつつ適切な学習活動ができるよう支援することが示されています。さらに法律の施行状況に関して、多様な学習活動の実情を踏まえ、本法律施行後3年以内に検討を行い、教育機会確保等の在り方の見直しを含め必要な措置を講ずるとされています。
教育機会確保法は、教育の新たな形を模索し具現化していくための礎となり、誰もが安心して学びを積み重ねることができる社会づくりに向けて一石を投じました。主たる学びの場としてその役割を担い続けている学校はもちろんのこと、多様化を遂げてきた学校以外の場で学べること、置かれた状況に左右されずに学べることで、将来の道が選びやすくなるようになるような取り組みの広がりが期待されています。
スマイルファクトリーのこれまでの取り組み

入室までの流れ
スマイルファクトリーでは、一人ひとりが安心して自分らしく過ごせる環境を整えるため、入室前からご本人・ご家族と一緒に過ごし方について考えています。ご本人にとってスマイルファクトリーの雰囲気や活動が合っているのかどうかを検討していただけるよう、入室までに以下の4ステップを踏みます。
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STEP1
初回面談
電話やメールで基本情報をお知らせいただいた上で、初回面談の日程調整を行います。
面談時にはお話しいただける範囲で、現在のお子さまやご家庭の状況、お気持ちについてお話を伺います。(ご家族のみの面談も受け付けています)
ご希望に応じて、こども達が下校したあとの静かな校舎をご見学いただくこともできます。初めての場所は緊張する、という方も安心してご覧いただけます。 -
STEP2
トライアル
初回面談を経て、「スマイルファクトリーに行ってみたい」という気持ちをもっていただけたら、トライアル(予約制)としてお試し入室をご案内します。午前の学習時間、午後の体験学習時間のいずれかを選択して参加できます。トライアル当日は、スタッフとの関わりを中心としながら、無理のない範囲で参加いただきます。みんなと教科の課題に取り組んだり体験学習に参加することはもちろん、個室で絵をかいたり、音楽室で楽器を演奏したり、廊下からそっと授業を見学しても構いません。それぞれが取り組みやすいことから参加しつつ、雰囲気を感じていただく時間になっています。
回数は、1回=1時間/日で計5回です。 -
STEP3
入室面談
スマイルファクトリーでどのように過ごしたいかを相談します。トライアル期間を経たことでお一人おひとりの中に湧いてきた「学習を頑張りたい」「友達をつくりたい」「自分の好きなことを深める時間にしたい」「ゆっくり過ごしたい」といった意向・願いをうかがい、可能な限り実現できるような通い方を一緒に考えます。また、不安を解消したうえで通っていただけるよう、心配事についてもお聞きします。
同様の内容をご家族にもうかがいます。ご本人の意向とすり合わせた上でサポートの方針を立て、ご家庭とスマイルファクトリーで協力体制を構築していきます。 -
STEP4
入室
まずは通い慣れていただくために、トライアルでの体験入室と同様、それぞれが取り組みやすいことから参加していただきます。校舎の玄関扉にタッチすることから始める方もいれば、スタッフに挨拶だけして下校する方、お昼ご飯だけみんなと食べて過ごす方など、一人ひとりに合わせて参加の形を一緒に考えます。
また、「一人では不安」という方は、ご家族と一緒に登校・参加いただいても大丈夫です。慣れてきたら、少しずつ通う時間を伸ばしたり、日数を増やしたり、あるいは個室から教室に雰囲気を見に行ってみたり…徐々に参加時間を増やしたり活動場所を広げていくことができます。無理のない範囲とペースで過ごせるよう、ご本人・ご家族とスタッフで相談しながら進めます。
登校に関しては原籍校との両立が可能です。例えば、「午前中は原籍校、午後はスマイルファクトリー」「一週間のうち2日は原籍校、3日はスマイルファクトリー」という通い方もできます。それぞれのスタイルに合った通い方が選択できます。
プログラム紹介
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10:15
朝のミーティング
スマイルファクトリーではイレギュラーな予定がある日も少なくないため、前日の帰りと当日の朝に1日の予定を確認するようにしています。1日の始まりにこれからの流れを見通し、チェックするポイントを確認することで、安心して過ごすことへの一助になれば、との意図があります。
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10:30
学習の時間
静かに勉強できる部屋、みんなと取り組める部屋、個室など、それぞれのペースやその日の気分によって、勉強する部屋を選べるようになっています。
自分のペースでそれぞれの勉強に取り組んでいます。持参した教材が中心ですが、スマイルファクトリーでも一通りの教材を揃えており、それらを使って学習することもできます。また、在籍校での定期試験や、検定試験に向けて自発的に勉強するこどももいます。 -
11:30
休み時間(30分)
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12:00
昼食・昼休み
好きな部屋で食べることができます。みんなでおしゃべりしながら食べる部屋もあれば静かに食べることができる部屋もあり、その日の気分に合わせて選べるようになっています。
お昼休みは、室内でボードゲームをしたり、外に出て運動したりして過ごします。グラウンドや体育館を使って、それぞれが遊びたいことで遊びます。 -
13:45
午後のプログラム(日替わりで実施)
体育・家庭科・美術 / 制作を中心にさまざまな体験プログラムを実施しています。
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14:45
帰りのミーティング
次回の予定や連絡事項の確認を行ったあと、“今日のMVP”というコーナーがあります。ここでは、友達と遊んだことやプログラムで頑張ったこと、お菓子をもらったことなど、1日を過ごす中で嬉しかったことや楽しかったこと、親切にしてもらったことを発表したい人が発表しています。
自分や相手の良いと思ったことをことばにする、周囲から肯定的な側面についてことばで伝えてもらう、といった経験を大事にしています。
最後に、レクリエーションとして“あるなしクイズ”が出題されます。スマイルファクトリーの当初から続いているクイズで、毎日1題出題されます。
終わりのミーティングで出題した答えを翌日朝のミーティングで発表することで、前日の活動を翌日につなげたい、という想いが込められています。 -
15:00
放課後
思い思いに過ごすことのできる時間です。体を動かすことが好きなこどもが多いので、校庭や体育館で野球や鬼ごっこなどで遊んでいます。カフェでゆっくりすることもできます。
放課後にはスタッフによる家庭訪問も行っています。スマイルファクトリーに行ってみたいけれど、おうちから出ることに抵抗感があるこどもには、保護者の方と相談して本人の承諾をいただいた上で、ご家庭で交流することをしています。
学習時間のさまざまな取り組み
多様なツールを使用した学びの提案
様々なニーズを持つこども達に好きな形で学習に取り組んでもらえるよう、スマイルファクトリーでは将棋や折り紙、タブレットでの調べもの、カードゲームなども教材として活用しています。興味のあることをきっかけに学習意欲が高まったり、一緒にゲームをすることで他者への関心が高まったりと、多様な学びを深めるツールとして役立っています。特に、スマホやタブレットといったデジタルデバイスは、友達との交流を深める重要なツールとなっている場面が多々見られます。そのため、スマイルファクトリーでは、程よい距離でそうしたツールと付き合っていけるような約束を決めた上で、休み時間や放課後に使ってもらえるようにしています。
毎週木曜日には“リララボ”(Re learn Labo)と名付けられた学びなおしの時間があります。
ゲーム感覚で学習できるプログラムで、友達と勉強をすることを楽しみに、毎回たくさんのこども達が参加しています。
一人ひとりに合わせた環境づくり、サポート体制
スタッフはそれぞれのペースで取り組めるような雰囲気づくりと見守りを大切にした関わりをしています。各教室をめぐって適宜声かけをする関わりをベースにしながら、学習に不安を持つこどもには、スタッフがマンツーマンでサポートを行うこともしています。分からない問題については、スタッフが解き方や考え方を教えることだけでなく、一緒に考えるという形でサポートをすることもしています。
スクーリングだけでなく、スタッフと1対1で過ごしたり、小さなグループの中で過ごしたりといった時間の持ち方も、希望や必要に応じて行っています。みんなと一緒に過ごすのではなく「自分のやりたいことを深めたい」「好きなことを追求したい」といったこどものニーズも大切にしています。
個室を活用した個別の関わり
音や視覚的な刺激が強すぎる、と感じられる方の避難場所としてや、友達とトラブルになった際のクールダウンの場所として、個室を活用しています。落ち着いた場所でスタッフと一緒に時間をかけながら、刺激に対する対処法を一緒に考え、発言や行動によって相手がどのような気持ちになるのかをやりとりしながら深堀りします。みんなが安心して過ごせるように協力してほしいこととして、スマイルファクトリーでの約束事を再確認することもあります。
また、みんなと一緒に過ごしたい気持ちがあっても、緊張や不安からなかなか入れない・・・
というこどももいます。そういった場合にも、安心して過ごしてもらいつつ、目標に向かって少しずつ進んでいってもらえるよう、このような関わりを大切にしています。集団で過ごすことも個別で過ごすことも、こども達一人ひとりが自分のペースで過ごしてもらうための手立てとして活用しています。
「体験すること」を重視したプログラム
午後の枠を大きく使った体験型授業
座学ではなく、何かをつくったり、体を動かしたりしながら学べるような「体験すること」を中心としたプログラムを実施しています。
さまざまなジャンルの外部講師を招いてのイベント型授業を行うこともあります。
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体育
スマイルファクトリーでどのように過ごしたいかを相談します。トライアル期間を経たことでお一人おひとりの中に湧いてきた「学習を頑張りたい」「友達をつくりたい」「自分の好きなことを深める時間にしたい」「ゆっくり過ごしたい」といった意向・願いをうかがい、可能な限り実現できるような通い方を一緒に考えます。また、不安を解消したうえで通っていただけるよう、心配事についてもお聞きします。
同様の内容をご家族にもうかがいます。ご本人の意向とすり合わせた上でサポートの方針を立て、ご家庭とスマイルファクトリーで協力体制を構築していきます。 -
家庭科
家庭科では、日常の暮らしに活かすことのできるプログラムを心がけています。内容はクイズやゲーム方式、シミュレーション形式といった、全員で考え楽しんでいけることを大切にしています。調理実習では、レシピを決めるところからみんなで考えます。
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美術
スマイルファクトリーで行う季節に合わせた行事にむけて、部屋の飾りやモニュメント作りに取り組んでいます。制作を通して、「イメージしたものを形にする」、「一つのものを集中して作り上げる」といった各々の目標の達成をめざします。
どのプログラムでも大切にしていることは、幅広い年齢のこども達が一緒に活動する上で、それぞれが自分のペースで楽しめるような工夫を施すことです。勝ち負けや良し悪しではなく、表現やコミュニケーションを目的にしていること、みんなで楽しく活動するために必要なことなどを、こうした体験プログラムを通して伝えています。
季節の行事・特別イベント
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夏のワークショップ
毎年夏休み期間には、こども達に普段とは違う世界観に触れてもらう機会として、それぞれのスタッフが得意なこと(家庭科や美術、人との関わり方についてなど)をベースにより踏み込んだ内容のワークショップを開催しています。
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スマイルフェスタ
ハロウィンの時期に行われる、スマイルファクトリーで一番大きなイベントです。
こども達が企画や運営をして、出店や出し物、飾りつけを行います。地域の方々やこども達のご家族もお招きします。 -
季節の行事
毎月の誕生会を始め、七夕やクリスマス会などの季節を感じてもらえるようなイベントも行っています。午後のプログラムの時間を使ってみんなで準備をしていきます。
さまざまな人との関わりを通して
休み時間を利用したコミュニケーション
スマイルファクトリーでは、それぞれが自分のペースでゆったり過ごしてほしい、との願いから、お昼の休み時間が1時間以上と長めになっています。同じ趣味を持つこども達が集まって会話を楽しんだり、カードゲームやボードゲームを通して新たな興味をもったりと、自由に過ごす中で周囲とコミュニケーションをとるきっかけにもなっています。
スマイルカフェ
校舎の1階には、スマイルのこども達はもちろん、地域の方など誰でも利用することができる「スマイルカフェ」があります。お昼休みはおしゃれな学食のような雰囲気で、こども達の憩いの場になっています。また、カフェスタッフは地域の方が担当してくださっているため、こども達と地域の方との交流の場にもなっています。
まとめ
こうしてスマイルファクトリーの日々をふりかえると、スマイルファクトリーの活動はたくさんの方々に支えられていて、こども達と関わるさまざまな大人が協力し合ってきているのだ、ということを改めて感じました。スマイルファクトリーで一緒に過ごすだけでなく、地域の方々や原籍校の先生方といった様々な視点を持った方々がこども達に関わってくださることで、成り立っているのだと思います。
そして何より、制度面で連携をとってくださっている池田市教育センターが、そうした場所や人に対しての環境を支えてくれていることが大きいと感じています。こうしてたくさんの人に関わってもらうことができるのも、様々な機関と手を取り合って協力できるのも、池田市がスマイルファクトリーの活動に理解を示し、支えてくださっていることが大きいです。
この環境のありがたみを感じているからこそ、これを池田市とスマイルファクトリーとの関係だけで留めるのではなく、他の地域でも実現されるよう、広げていくことが重要だと考えています。